(アジュバントって何?)
新型コロナウイルスの発現とともに急速に注目され研究開発が進められているmRNAワクチン。今後はさらに、がん治療への応用が期待されています。
iCONMで進めているmRNA研究にも多くの注目が集まっています。
■mRNA ワクチンの仕組み■
(インフルエンザウイルスやCOVID-19など)ウイルスに特有のタンパク質を作る設計図を書き込んだmRNAを投与すると、mRNAは体内で同じタンパク質を作り出します。すると、そのタンパク質に結合する抗体が体内で作られ、本物のウイルスが体内に侵入したとき、そのタンパク質を目印として抗体がウイルスを攻撃します。これを液性免疫といいます。
従来のmRNAワクチンは、脂でできた小さなカプセル(LNP:脂質性ナノ粒子)にmRNAを封入して投与するものですが、このカプセルには免疫を活性化する作用があります。このように免疫反応を活性化する物質をアジュバントといいます。アジュバントは作用が強すぎると過敏反応を引き起こし、作用が弱いと十分なワクチン効果が得られません。
■アジュバント機能一体型mRNA■
mRNAワクチンに最適なアジュバントを模索する中で、iCONMでは2017年にアジュバントの機能をmRNA自体に「組み込む」方法を開発し、東京大学、東京医科歯科大学とともに記者会見を開いてその内容を発表しています。そして2023年7月、新たなアジュバント機能一体型mRNA「くし型mRNA」についてiCONM、東京医科歯科大、杏林大学の研究員が論文を発表し、こちらも大きな反響がありました。
これらのmRNAはアジュバント機能が組み込まれているため、脂質性ナノ粒子に入れないジェットインジェクションという投与法で(従来の注射とはちょっと違うやり方で)高い効果が動物で認められています。また、くし型mRNAの特徴として、アジュバントすなわち免疫活性化の強度をコントロールしやすいこと、免疫を活性化すると同時に抗原タンパク質を作り出す機能を十分に保てることが挙げられます。
■細胞性免疫■
冒頭に述べたような液性免疫は、産生された抗体がウイルスのような小さな異物に対して働く免疫です。しかし、細胞サイズの大きな敵(例えば、すでにウイルスに感染してしまった細胞やがん細胞)に対しては効果がありません。このような大型の異物に対しては、免疫細胞自体が異物を攻撃する細胞性免疫という仕組みがあり、くし型mRNAには、この細胞性免疫を高める作用があることもわかっています。細胞性免疫を高めるmRNAワクチンは、がんの治療に用いられている(*)ことから、くし型mRNAのがんワクチンへの有用性が期待されています。
*がん治療mRNAワクチンの仕組み:
がん細胞に特異的なタンパク質(がん抗原)を作るmRNAを接種することでがん細胞を攻撃する細胞性免疫が得られる