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5/29(土) 第2回iCONM市民公開講座を開催しました
2021年5月29日:第2回 iCONM 市民公開講座 「正しく知りたいがん治療と治験」がオンラインで開催されました。関係者含め200名超の参加者が聴講し、本テーマへの関心の高さを伺い知ることができます。国立がん研究センターの最新資料*によれば、日本人男性の65.5%、女性の50.2%が一生のうちにがんに罹患する可能性があるそうです。また、がんは日本人の死因の第一位であり、2019年には 男性で4人に1人、女性で6人に1人の方ががんで亡くなっています。これだけ身近でシリアスな病だからこそ、正しい知識と備えが必要であり、その意識啓発を目的として本イベントが企画されたことが、冒頭、主催者を代表して挨拶に立った片岡一則 iCONMセンター長から示されました。当センターでは、体内の狙った組織に薬剤を届けるナノDDSに関する研究が進められていて、より副作用が少なく低投与量の抗がん剤が臨床試験(治験)の段階にあります。
1人目の講師として登壇した東京女子医科大学病院の村垣善治医師(脳外科)からは、脳腫瘍の外科的治療を実例として、外科手術のリスクについての考え方を学びました。外科手術は他のどんな治療と比べてもリスクの大きい選択肢ではあるものの、治療後のベネフィット(死亡リスクの低下や苦痛の低減)が大きく、患者さん自らがそれを知り、医師と相談して何を一番に考えるかを決める「インフォームド・ディシジョン」が重要だと説きました。特に脳の場合は、病巣の切除により運動や言語といった機能を失うリスクがあります。ゆえに、どこにメスを入れるか患者さんの意思を尊重して執刀医が術中に決める必要があります。脳には痛覚神経がほとんど無いので、一端麻酔を切った状態で患者さんを覚醒させ、微小電流による刺激により、その部位の切除が及ぼす機能障害を調べながら患部を切除する覚醒下手術がその一助として紹介されました。また、術中にがん組織と正常組織の境を調べるMRIや、フローサイトメトリーという腫瘍組織の取り残しが無いかを判断する装置を手術室に組入れ、それらのデータを高解像度顕微鏡カメラで大きく術野を拡大した映像とともに大画面で管理できる最先端の手術室 SCOT** についても紹介されました。手術によるリスクを下げ、患者さんのベネフィットを高めるための医療技術が大きく前進していることがよく分かりました。
続いて、日本医科大学武蔵小杉病院の勝俣範之医師(腫瘍内科)からは抗がん剤の治験に関する基礎知識と「標準治療」の本質的な意味について学びました。薬の種となる物質の探索から新薬が誕生するまでには15年という期間が必要であり、その成功確率も1万分の1と小さく、特に、実際に人への投与が行われる治験での成功が鍵を握っていることが説明されました。治験には製薬企業が資金を担って行う「企業主導治験」と、公的資金や民間からの基金の下で行う「医師主導治験」がありますが、諸外国と比べ日本では後者が少なく、製薬企業のビジネスに乗らない疾病に対する医療の進歩には、医師主導治験を行うための施設の充実や環境の改善が不可欠であると述べられました。また、明確な治療効果が認められていないのにも関わらず、それらしきことを謳って商売に繋げようとする情報がネットには溢れていて、安易にそれらの誘いに乗ることが大変危険であるとの注意喚起もなされました。「標準治療」は、有効性と安全性が確認されている最善の治療法であり、治験はそれとの比較によりどれだけの改善がなされたかを評価するものです。特に第Ⅲ相治験は、治療の選択肢として考えても良いことが示されました。
総合討論では、参加者から大変多くの質問が寄せられました。その一部を先生方からの回答とともに以下に示します。
Q. 治験へはどうしたら参加できるのでしょうか?
A. 治験への参加には、多くの条件があり、その条件に合う方が参加できます。その条件は、治験毎に異なるので、まずは情報を得る必要があります。次のサイトから、現在行われている臨床試験の情報が閲覧できます。通院している病院で実施されていない治験を受けたいと思った場合にも、まずは主治医へご相談ください。
▼ 国立がん研究センター がん情報サービス 「がんの臨床試験を探す」
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/clinical_trial/search2.html
Q. インターネットには様々ながん治療に関する情報が溢れています。怪しい医療情報を取り締まることはできないのでしょうか。
A. 以前、ネット情報がどれくらい信じられるか調べたところ、約10%しか信じられる情報はありませんでした(勝俣医師)。厚生労働省が定める「医療広告ガイドライン」によって規制はされているものの、まだまだインターネットには怪しい医療情報が溢れています。次のサイトから、「医療広告ガイドライン」違反の疑いのあるウェブサイトについて情報を寄せることができます。ぜひご活用ください。
▼医療機関ネットパトロール (厚生労働省)
http://iryoukoukoku-patroll.com/
▼医療法における病院等の広告規制について (厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
Q. 海外のお薬を輸入する「個人輸入」サイトについて、これは合法なのでしょうか?
A. 法律として咎めるものではありませんが、自由診療の扱いです。つまり、個人の責任において輸入することは合法ですが、人種差や患者さん個人の状態(他の疾患との関係など)において異なりますので主治医と相談されることをお勧めします。個人の判断による輸入は大変危険です。
Q. 治験が終了したら投薬も中止されるのでしょうか?
A. コンパッショネート・ユースという制度があり、治験薬に有効性が認められれば継続して投薬を受けることが可能です。治験プログラムによって異なりますので、治験担当者にお尋ねください。
今回、参加者のうちの9割は、ご自身または身近にがんを経験した方がいらっしゃいました。二人に一人が罹患するとされる、身近で、深刻な疾病である「がん」について正しい知識を身につけ、もしがんと診断されても最善の方策をとれるよう日頃から備えておくことが肝要であることを学ぶ好機となりました。
講演の概要はこちらをご参照ください。
*最新がん統計:
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
**スマート治療室 SCOT (Smart Cyber Operating Theater):
https://www.twmu.ac.jp/ABMES/FATS/