OUR VISION
細胞内で分子輸送を自在に制御することで、生命を理解し、操作し、治療し、発展させる
生命は、分子の移動でできている
タンパク質、核酸、脂質、代謝物。細胞をつくる分子は、そこにあるだけでは十分に働けません。必要な場所へ移動し、しかるべき時に相手と出会うことで、はじめてその機能を発揮します。
核と細胞質の間を行き交う情報。オルガネラの間で受け渡される物質。細胞の中を伝わるシグナル。役目を終えた成分の分解と再利用。生命活動の多くは、こうした精密な分子輸送によって支えられています。
分子がどこにいるのか、いつ動くのか、何と出会うのか。その違いが、分子の働きを変え、細胞のふるまいを変えます。本領域は、この分子輸送そのものに光を当て、生命現象を理解し、操作するための新しい学術の軸として捉え直します。

細胞に届いた、その先へ
ドラッグデリバリーシステム(DDS)は、薬物を必要な組織や細胞へ届ける技術として発展し、低分子から核酸、タンパク質まで、多様な分子の送達を可能にしてきました。
では、細胞に届いた、その先はどうでしょうか。細胞の中でも、分子の局在や相互作用、分解を制御する優れた手法が生まれています。けれど、運ぶ相手と行き先を目的に応じて選び、細胞内の分子輸送を汎用的に設計できる技術基盤は、まだ確立されていません。
生命現象が絶えず進行する細胞の中で、分子の動きに意図して介入できるようになれば、生命を調べる方法が変わります。細胞を操作する方法が変わります。創薬にも、これまでとは異なる発想が生まれます。
その先を、切り拓く。ここから、本領域の挑戦は始まります。

分子の行き先を、設計する
本領域が提案するのは、「細胞内シャトル」です。細胞の中で分子を運び、その移動、局在、相互作用に介入することを目指す、新しい分子ツールです。
分子はどこへ向かうのか。何と出会うのか。その結果、細胞の中で何が起こるのか。
これまで生命現象の一部として観察してきた分子の動きを、理解し、設計し、操作できる対象へ。分子輸送という生命の根幹に新しい制御の軸を加え、生命科学と創薬の方法そのものを広げる。それが、細胞内シャトルという構想です。
異なる研究分野が、一つの構想に集う
細胞内の分子輸送を、新たな研究と操作の対象へ変えるには、一つの研究分野だけでは届きません。本領域は、DDS、生成AI、ペプチド科学という異なる研究分野を結集し、細胞内シャトルの創出に挑みます。
DDSは、細胞内シャトルの技術基盤を築き、細胞、組織、個体へと実装します。
生成AIは、細胞内シャトルを支える分子を設計します。
ペプチド科学は、細胞内の分子輸送につながる新しい機能を創り出します。
3つの分野を並べて置くのではなく、細胞内シャトルという一つの構想のもとに集める。異なる学問の交点から、これまでにない分子輸送研究を生み出すこと。それもまた、本領域が目指す学術変革です。

本領域が目指すこと
創る。 細胞内の分子輸送に介入する「細胞内シャトル」の技術基盤を構築します。特定の用途に閉じない、目的に応じて組み替えられる技術として設計します。
届ける。 培養細胞にとどまらず、組織や個体でも使える技術へ発展させます。体の外から目的の細胞、そしてその内側へと続く道のりを射程に入れます。
活かす。 細胞内シャトルを創薬へ展開し、その有用性を検証します。分子の量ではなく、どこにあるか、何と出会うかに働きかけるという発想から、これまでとは異なる生命制御と創薬の可能性を探ります。
そして、この3つの先に見据えているのは、細胞内シャトルという一つの技術を越えて、分子輸送を軸とする新しい学術を育てることです。
領域代表挨拶
蘊奥の窮理。新しい学術は、そこから始まると考えています。今ここで究めようとしているのは、細胞を起点とする分子輸送です。
私が取り組んできたのは、薬を目的の細胞まで届ける技術でした。体の外から、細胞の中へ。そこまでは手が届くようになってきました。しかし、届いたあとの分子の動きは、観察できても、設計は困難です。もしその流れに意図して介入できれば、生命を理解し、操作する方法そのものが変わるのではないか。この問いが、「細胞内シャトル」の出発点です。
構想を形にするため、DDS・生体材料学、生成AI・データサイエンス、ペプチド科学という異なる背景の研究者が集まりました。それぞれに固有の言葉と作法を持つ学問を持ち寄り、一つの分子を組み上げるには、互いの奥まで踏み込むほかありません。異なる学問の間に甚深の調和を生む。そこに、この領域の要があります。
3年間で、細胞内シャトルの技術基盤を築き、細胞から組織、個体へ、そして創薬へと展開する道筋を示します。けれど、見据えているのはその先です。分子を動かし、学術を動かし、やがて社会を動かす。その動きを、本領域から起こします。ただ、今はまだ小さな集まりです。分野を問わず、一人でも多くの方に加わっていただき、やがて大きな渦にしたいと願っています。
細胞に届けた、その先から。分子輸送を、新しい生命科学へ。私たちは、その幕を上げます。皆さまとご一緒できることを、楽しみにしています。

持田 祐希
