21世紀を先導する分野横断的中核技術であるナノテクノロジーは、各界の注目の元に急速かつ着実な進展をみせており、今やその成果の産業応用・社会還元が強く期待されるようになってきています。とりわけ、Quality of Life (QOL)の高い診断・治療技術の確立が強く望まれている医療分野においては、「必要な時に、必要な場所で、必要な診断・治療」を最小限の副作用と最大限の効果で達成するナノテクノロジーに基づく新しい診断・治療システムの創出が待望されています。
我が国は、早期からナノテクノロジー・材料技術の医療応用を進めるナノバイオ分野を重点研究領域として定め、研究拠点の整備等の施策を積極的に展開した結果、DDS、分子イメージング、生体適合材料、医療用 μ-TAS (micro-total analytical system) における学術的ポテンシャルは世界トップレベルに達しています。この様な、我が国が世界をリードするナノテクノロジー・材料技術を基盤とすれば、いつでも・どこでも・だれでも享受できる高効率・高信頼性医療システムを構築する事が出来るはずです。
各種報道でも取り上げられている様に、日本は超高齢・成熟社会に向かって世界の先頭を走り、人類未体験状況を受け入れるための新たな社会システム構築を模索しています。特に医療関連分野は、がん・運動器疾患・循環器疾患などが高齢化に伴い急速に増加し、社会・経済的に大きな問題となっている一方で、高QOL医療への国民的欲求の増大や医療費の増加・医師不足といった課題が顕在化しています。また、産業的な側面からは、医療産業のグローバル化の中で、医薬品・医療機器の極端に不均衡な輸入超過構造となっており、その是正が喫緊の課題であると言えます。
ナノテクノロジー・材料技術を基盤とした革新的診断・治療システムの構築を通じて、上記の課題に対する汎用性高いソリューションが提供され、真の健康サスティナブル社会が実現される事が大いに期待されるところです。一方、学術的な観点からは、ナノバイオテクノロジーを基軸とした医薬工融合分野における人材育成が的確に行われる事によって、将来日本が世界を牽引し、新たなイノベーションを生み出す原動力の蓄積が行われるものと確信しています。
片岡 一則