研究計画
本プロジェクトでは、医療機器や薬剤等の様々な機能をナノスケールで一体化したナノバイオデバイスを創出することによって、「がん」をはじめとする難病の超早期診断から根本治療に至るまでを低侵襲かつシームレスに実現する精密診断・治療システムを構築を目指します。
それによって、いつでも、どこでも、誰にでも、安心して高品質な医療を適正な費用対効果で提供出来る医療システムのイノベーションにつなげていくことが可能になります。また、我が国の未来を牽引する新医療産業を世界に先駆け確立し国際的産業競争力の強化に貢献したいと考えています。
一方、学術的な観点からは、ナノバイオテクノロジーを基軸とした新規学術分野を創成し、医薬工融合分野における人材育成を行い、将来日本が世界を牽引し、新たなイノベーションを生み出す原動力につなげてまいります。
診断・治療の対象としては、国民の死因の第一位である「がん」を選択します。そこで得られた基盤技術は循環器疾患等の国民の健康を脅かす様々な疾患の診断・治療へと展開可能となります。 がんをはじめとする難病疾患の克服のためには、検診による早期診断とイメージングによる精密診断によって疾患の前触れや病変部位を的確に検出し、その情報に基づいて局所療法である手術治療と全身療法である薬物治療を疾患の病態に応じて適切に組み合わせることによって有効性と安全性に優れた治療を施し、治療後は患部の再建を行うといったすべてのプロセスをシームレスに実現する必要があります。そこで本プロジェクトでは、ナノバイオテクノロジーを基盤とした次の4つのサブテーマを工・医・薬・産の緊密な連携によって推進します。
- ナノ診断システムの創成
- ナノ薬剤送達システム(ナノDDS)の創成
- ナノ低侵襲治療システムの創成
- ナノ再建システムの創成
上記のサブテーマI~IVに加えて、サブテーマに共通の研究テーマとして、ナノバイオテクノロジーの社会還元推進研究を実施します。ここでは各サブテーマで開発された技術・製品の迅速な社会還元に向けた活動を実践するだけでなく、先端ナノテクノロジーを活用した医薬品・医療機器の世界的な研究開発動向を踏まえ、その製品化が医療費や医療・社会システム全体に及ぼす影響を定量化しうる精緻な評価系の構築を行います。
サブテーマIでは、微量な血液に含まれる「がんマーカー」を高感度に検出する迅速がん検診用デバイスの開発を行い、サブテーマIIおよびIIIのがん治療に当該技術を用いたポイント・オブ・ケア(POCT)検査を併用することで、容易に薬効予測や治療後の経過観察を行う事が可能になり、より高い治療効果が実現できます。 サブテーマIIでは、イメージング分子を複合的に搭載した「見えるナノデバイス」を構築することによって、微小がんの診断が実現され、さらにナノデバイスを用いたがん標的治療における「予測治療」や「迅速効果判定」が可能となります。また、サブテーマIIで開発される進行がん、転移がんをも対象としたナノDDSによる全身薬物治療とサブテーマIIIで開発されるがん局所に対する超低侵襲治療を組み合わせることによって、あらゆる病態のがんに対して根治をもたらすことのできる系統的ながん治療が確立されます。 さらに、サブテーマIIIの超低侵襲治療とサブテーマIVで開発されるナノDDSを空間的に配置した組織誘導デバイスを組み合わせることによって、治療後の患部の組織再建が促進され、患者の入院期間の短縮と早期社会復帰が実現されます。
具体的には、次のような目標を掲げています。
- がん早期診断のための血中マーカーの迅速・高感度計測デバイス技術の確立
- 簡易型迅速診断法の確立によるがん死亡率低下、がん検査システムの効率化、通院コスト削減、地域格差解消に貢献します。
- ナノデバイスによる患部イメージング技術の確立
- イメージング機能を搭載した「見えるナノバイオデバイス」による予測治療や迅速効果判定等を含めた確実性の高い治療につながります。
- 抗がん剤内包ナノバイオデバイスの実用化
- 副作用の少ないピンポイント治療の実現による国民の健康寿命の延伸、入院不要・副作用低減による患者QOLの向上、日本発のDDS技術に基づく2-5兆円規模の市場形成と我が国の国際的産業競争力の強化などに貢献できます。
- 核酸医薬内包ナノバイオデバイスの基盤構築
- 核酸医薬の実用化、普遍的なデリバリー技術による世界市場への展開、抗体医薬から核酸医薬へのシフトによる医療費の適正な設計、循環器・運動器等のがん以外の難病治療の実現などにつながります。
- ナノバイオデバイスとナビゲーション技術の融合による低侵襲治療技術の確立とナノバイオデバイス融合型組織誘導インプラントデバイスの実用化
- 治療後の患者の迅速な社会復帰と高QOLが実現できます。